はーみんの永い言い訳

【2018年5月25日〜】

スカートの下の劇場(上)

スカートの下,覗きにきたんでしょう?

せっかく覗きにきてくれたので,今回の記事では,パンティの話をしてみる。

 

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 韓国アイドルのソルリが,自殺した。

 多分,韓国の芸能界に少しでも興味がある人なら,みんな知っていると思う。びっくりするほど綺麗な人で,韓国のシンガーソングライターのIUは,彼女の美しさを曲にしたりもした。この世の言葉じゃ,あなたの美しさを言い表せないよ,という内容の歌詞で。

 

 そんなソルリが生前,自分の描いた絵をあげていくインスタのアカウントがあった。そのアカウント名がまたキュートで,おもわず笑っちゃったな。

 

 Be my panties

 

 わたしのパンティにならない?でもなく,なりたいかい?でもない,「わたしのパンティになりなさい」だなんて!彼女,なんとそのアカウントにおそらく自分のものであろうパンティの絵をあげていた。

 

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 その絵の構図がまた,鑑賞者の桃色の妄想を掻き立てるもので。スカートをちらっとめくった先,姿を現す薄いピンクのかかった,真っ白な太もも。そして,陰部をそっと覆い隠す色よりどりのパンティたち。彼女,その絵を描いているとき「あー,わたしって,こんなに美しい」なんてこと,考えていたのかな。わたしはとっても可愛いし,ちょっぴりメルヘンな彼女の趣味もまた,素敵だと思っていた。

 

 ソルリのアカウントは,たちまち有名になった。非公開にもしていなかったから,あえて知らせる努力をしていなかっただけで,多分知られても平気だったんだろう。しばらくすると,パンティの絵の下のコメント欄は,猥褻だの,ふしだらだの,言いたい放題の罵りでだんだん溢れかえっていった。

 

 そんな「猥褻」で「ふしだら」な彼女が,ある日,自ら命を絶ってしまった。彼女が亡くなったという話を聞いた夜,わたしは熱を出した。火照った頬を枕に深く埋め,どうしてこんなに心が痛むのか,考えて,考えて,また考えた。誰も頼みやしないってのに,わたしはどうにかしてこの悲しみを,衝撃を,怒りを,言葉にせねばならないという思いに駆られた。

 

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 ソルリへのバッシングは,彼女のパンティの絵から始まったわけではない。ノーブラで,乳首の透けて見える私服姿を堂々とあげていた彼女,ある番組では「ブラジャーはわたしにとってアクセサリー。ノーブラ姿は可愛いと思う」と発言していた。元アイドルの身で,彼氏とのラブラブなツーショットや,性行為を連想させる写真なんかも,頻繁にあげていた。彼女が自由になればなるほど,悪プル(韓国の造語。悪性リプライを略した言葉)はどんどん加熱していく。炎上したら,その掲示物が事務所の権限を使ってでも消されるのが普通なのに,誰に何を言われようと,ソルリのインスタは,いつも,そこに,そのまま,あった。

 

 ソルリの死から間も無く,彼女と親友だった韓国アイドルのク・ハラも自殺した。彼女は恋人だった男に暴力を振るわれたことを明かして裁判を起こしていた。その過程で男は,こっそり撮った彼女とのセックスビデオで彼女を脅した。判事は,彼女がそのビデオを故意で撮ったものかを確認するため,裁判でビデオを公開したという。判決文には,性行為の回数や,行われた場所などまで,公開的に述べられたらしい。

 

 おかしい。何かがおかしい。

 

 「女性はこうあるべき」だという規範から自由になった女にはバッシングが集中し,愛した人とのセックスが,その恋が終わった瞬間,凶器と化する。この二人の女性の死は何を意味するんだろう。どうして,こんなにもわたしは悲しくなるんだろう。

 

 

(続く)

 

 

【参考文献】

  • 上野千鶴子(1989)『スカートの下の劇場』河出書房新社.